アベック

gushoukuuron2005-05-26

林業で架設する架線には、集材線と運材線の2種類がある。
写真は材を運ぶ運材線で使用するキャレッジ(搬器)である。
キャレッジとは、主索上を往復して
材などの荷を吊り上げる装置のこと。
たいていは「キャレ」と短縮して呼ぶのだが、
運材線のキャレッジは「アベック・キャレ」となる。
 
アベックとはこれまた時代を感じさせる言葉だ。
世間ではもう既に死語に近いのではないか。
このような言葉がいまだに生きているのも、古くからの伝統ある産業である林業の一面を表わしているように思う。
またその伝統を表現するが如く、写真の機器も錆だらけで年季を感じさせる。
 
アベックとは「男女の二人連れ」「2つのものが一緒に行動すること」という意味で、
この運材線の場合は当然「2つのものが一緒に」であるのでこの言葉が使われるようになったのだろう。
2つのものとは架設するワイヤーなのだが、
運材線の索張り方式は「ダブル・エンドレス方式」といってエンドレス索を2本張る。
その2本の索を一緒に、つまり同じ速度で動かすからアベックなのである。
 
これだけの説明では何のことか理解できないであろうから、もう少し詳しく説明してみる。
このキャレッジには4本のワイヤーロープにより機能する。
まず1本目は、キャレッジを吊り下げているワイヤー、これが主索である。
この主索はレールの役割を果たすもので、当然固定されている。
次の2本目はキャレッジを移動させるワイヤー、これはキャレッジの両端に接続され、
ループ状のエンドレス索として集材機のドラムにより移動させる仕組み。
3本目はキャレッジの真ん中のドラムに撒きついているワイヤーで、
これもエンドレス索として、集材機で動かすことが出来る。
4本目はアベック・キャレッジの中に収納されているワイヤーで、巻上げ索である。
この巻上げ索によって荷を吊り上げることが出来るわけだ。
そして4本目の巻上げ索は、3本目が撒きついているキャレッジ真ん中のドラムが回転することで、
あがったり下がったりする仕組みになっている。
集材機の操作は、荷の上げ下げの際には、2本目は固定で3本目を動かすことで機能する。
荷の移動のときは、2本目3本目とも、同時に動かす。
こうすると2本のワイヤーの相対速度はゼロになるので、
真ん中のドラムは動くことはなく、巻上げ索はそのままでキャレッジが移動、という具合になるわけだ。
 
このアベック・キャレッジ、原理は簡単なのだが、いや、簡単であるからこそ、なかなかの優れものである。 
「アベック」という言葉は、このキャレッジとともにこれからも林業の世界で生き残っていくのであろう。