「都市と地方の共感を深める「緑の雇用」推進県連合」共同政策提言 その2

昨日のエントリーは、森林組合への悪口で終わってしまったので、本日は提言そのものについてのコメントを。
 
提言たって公表されているのをみると、なんだこりゃ、というくらいの簡単なもの。
これではコメントのし甲斐もないのだが...。
 
まず、「1 新たな「緑の雇用担い手育成対策事業」の創設」。
研修期間を1年から複数年に延長するというのは、当然だろうと思われるが、私の思いとしては?
これはどこまでを研修とするのかという、研修の内容の定義とも関わってくるのだが、
林業という産業の実態を考えたとき、徒に長い研修期間というのはあまり意味がないのではないか、と思う。
何よりも、それだけの研修の講師となる人材がいないのではないか。
 
現在行われている「担い手対策事業」での研修の講師は、どこの事業体でもおそらくはベテランの作業員であろう。
まず、この人たちには研修の講師といったような役割は似つかわしくないし、またできる人も少ないだろう。
作業の方法の指導はしてくれる。私も実際してもらった。
だが研修というほど細かく指導してくれない。いや、できないのだ。その方法論が林業の世界では確立されていない。
 
林業の世界では、いまだに「技は盗め」というような意識が生きている古い世界だ。
ベテランさんたちも、確かに上の人間から言われて、
「俺たちの若い頃は...」なんて言いつつも、山の技術のほんのさわりの部分は教えてくれる。
だが、肝心なことは教えてくれない。
そんなことは言葉で教えることなどできない、というのがベテランたちの本音だろうし、
そして、おそらくそれは事実だろう。
だから、その研修の実態はどうなるかというと、これは普通に研修といわれて想像するようなものではなく、
もう、あくまでも一般に行われている林業の「作業」とほとんど同じものである。
ただし、未熟者ばかりの集団でおこなう、非常に危なっかしい作業だ。
 
しかも、現在行われている「担い手」事業は研修というが、
国から支給される人件費の補助は、1人当たり月9万円のはずである。
それ以上は、「研修」で稼がなければならない。
研修で稼ぐとはどういうことか。
研修といいながら、もうすでに事業体の普通の業務の中に繰り入れられているのだ。
こんなことをするならば、「研修」というような名目で未熟者を集めて作業を行うなんてことは止めた方が良い。
なにより、未熟者ばかりで作業をするのは危ない。ベテランが1人2人ついたって目は届かない。
ある程度山の仕事に慣れたら、早く経験のある作業員たちの中へ放り込むのが一番よい。
だいたい、山仕事の指導は新人1人に対しベテラン3人は必要だといわれているのだ。
 
高性能林業機械などの研修についても触れられているが、これは「受入事業体要件の緩和」で対処できるはず。
機械を扱うのであるから、自動車と同じ、まず教習は必要であろう。
この教習を研修とするのはよかろう。
だがやはり、これも「実戦配備」されなければ、ペーパードライバーと一緒で、いつまでたっても技能は向上しない。
ま、当然のことだが、従来の研修の延長線上ということであるならば、このようなことを心配せざるを得ないのだ。
 
実は、私が森林組合を辞めた理由のひとつが、この「実戦配備」の問題であった。
森林組合で修行しても、まず本当の「担い手」なんかにはなれっこない、と感じたのが大きかった。
まずそれだけの指導、というより、実際の仕事が出来るだけの人間がいなかった。
だからより高度な「修行」を望むなら、職場を変えなければならなかったわけだ。
 
その意味でいうと、「受入事業体要件の緩和」は期待出来る。
受入事業体の幅が広がることで受入人数のみならず、研修そのものの内容の幅が広がることが期待できるからだ。
ただし、これには「研修の講師」を行政の側できっちりチェックし、その内容を十分に公表することが必要だろう。
これは特に高性能林業機械などでは重要。
噂で聞くところによると、ロクに使えもしない高価な林業機械を研修名目で購入し、
使いようがなくて遊ばせているようなところもある、らしいからだ。
 
次に、ったって2項目しかないのだが、「2「緑の雇用」森林整備事業の創設」。
この項目の内容、ごもっともなのだが、これは「緑の雇用」限定の問題ではなく、、
現在の林業全体に課せられている課題であろう。
特に引っかかるのが
「持続可能な森林経営や二酸化炭素の排出抑制につながる間伐材の利用を推進する木材搬出の実施」
という提言。
とても重要なことだと思うが、こんなこと、経験の浅い「担い手」主体で出来るだろうか?
「間伐や路網整備、高性能林業機械によるOJTの実施」という研修はこれを想定してのことだろうが、
そう一足飛びには行かないだろう。
ここらは林業界全体で、つまり新人の担い手ばかりでなく長く林業で飯を食っている人たちをも含めて、
当たるべき問題だし、またそうでなければ対処できないのではないか。
そうなるとかえって、「緑の雇用」という枠が問題になってくるわけだが...。
 
ま、とりあえず、「緑の雇用」という看板を掲げて国から予算を引っ張ってこようっていうのは悪くないとは思うけど。
何度もいうが「理念は立派」なんだし。
だが、これも何度も言うが、理念だけではまわらない。運用を上手にやらないと。
いっそのこと、運用する側の人間も「緑の雇用」にしたら? と思うのだが。