The Dark Side

昨晩、NHK・BS1で放送していた『BS世界のドキュメンタリー「それは9.11から始まった −ブッシュ政権対テロ戦争”の内幕−」』を見た。午後10時過ぎという、私の就寝時刻をとうに過ぎた時間帯の放送だったので、ビデオ録画をしていたの見た。ビデオ録画をするとたいてい見ないのだが、今回は珍しく、すぐに見た。
 
見ての感想は一言、「何とくだらない!」。
番組の放送内容がくだらないというのではない。このドキュメンタリーのなかで抉り出されているものが真実かどうかは知らないが、こういったものを製作することができるアメリカという国の懐の深さは、くだらないなんてことはない。もし、このドキュメンタリーがブッシュ政権の「真実」に迫っているとするなら、その「真実」こそがくだらない! とそう思ったのである。
 
そんな「真実」であのイラク戦争が引き起こされ、なおもイラクが内戦状態にあるとするなら、これほどくだらないことはない。
 
ドキュメンタリーは、イラク戦争が起こった原因をブッシュ政権内の権力闘争にあったとして描き出している。チェイニー副大統領・ラムズフェルド国防長官vsテネットCIA長官・パウエル国務長官の主導権争い。9.11直後からチェイニーはアルカイダイラクが協力関係にあるとしてイラクへの攻撃を画策、イラクアルカイダが結びついている証拠がないとするCIAと対立し、その対立を政権内の“闘争”で決着させ、その結果がイラク戦争へとなっていく。
 
繰り返すが、くだらない話だ。こんなくだらないことが政治というものの実態なのかどうか、私のような庶民にはその真実を直接確かめる術はないけれど、でも、「ありそうな話」だと思ってしまうところが怖い。ただ、直接確かめる術はなくても、世の中で起こっている現象を見渡してみると、この「ありそうな話」の傍証はいくらも転がっている。それらを組み立てると、この「ありそうな話」がもっともつじつまが合うように思えてしまう。恐ろしいことだ。
 
このドキュメンタリーでは「ありそうな話」が展開され、それを裏付ける証言もいろいろ登場するのだけれど、一部、「ありそうでない話」もあった。それはチェイニーたちがCIAと対立して情報操作を行っていく動機についてだ。ドキュメンタリーではチェイニーのCIAに対する不信だと説明されていたし、その説明を支える事実も紹介されていたけれど、それだけ、というのは「ありそうもない話」だ。それよりもむしろ、チェイニーがいわゆる軍産複合体の親玉だから、という方が「ありそうな話」だ。こんなことは周知の事実だろうと私なんかは素直に信じているけど、このドキュメンタリーでそれが指摘されなかったのは事実と異なるからだろうか? それとも、いかにアメリカのジャーナリズムといえど、そこまで踏み込めなかったのか?
 
NHK・BS1で放送された当番組、一番興味深かったのは当のNHKだ。このドキュメンタリーを放映したという事実だけでも十分興味深いが、ドキュメンタリー放映前後に付けられたNHKの「見解」がさらに興味深い。
NHK解説委員が最後に述べたコメントを引用してみる。
イラク戦争開戦前夜、アメリカのメディアがこぞって、アメリカにとって一世一代の大バクチになると論評していたことを思い出します。チェイニー副大統領は番組冒頭で“The Dark Side”という言葉を使っています。“The Dark Side”というのは映画『STAR WARS』で闇の力を象徴する言葉として使われています。その“The Dark Side”、闇の力に頼ってきた結果、今、アメリカが、そして世界が混乱の中にあります。
・・・
世界ではテロの危険がますます高まり、イスラム世界からヨーロッパに至るまで反米感情が渦巻いています。誤った計算に基づいたブッシュ政権の大バクチは失敗しました。
・・・」
 
おお、断言してしまった! 小泉がもう退陣するとはいえ...
これが一番組の中だけの断言でないことを願うばかりです。