木登り

gushoukuuron2005-05-03

今日、木登り講習会に参加してきた。
この講習会は奈良県の川上村で長年林業にたずさわってきた杉本さんが、
おそらく私的に行ったもの。
杉本さんは杉の種取りの名人で、
「森の聞き書き甲子園」なる企画なんかでも取り上げられてきた人。
この人とも川上村の森と水の源流館の企画で知己を得、
そのときに機会があればぜひとも木登りの方法を教えてください、
とお願いしておいのたが実現したという次第。
森の人、人の森。―森の聞き書き甲子園が高校生にもたらしたもの
 
林業では植林ということを行う。
読んで字の如く、林を植える、木を植える。
林業の場合、植える樹種は主にスギ、ヒノキということになる。
で、この植林の際に重要になってくるのが、いかにして優秀な苗木を確保するか、ということである。
 
現在ではこの苗木を作るのは挿木が主流になっているが、
かつては母樹から種子を採取してそれを畑に蒔き、苗木を育てていた。
よい苗木を作るためには、種子を採取する母樹の選定が鍵となる。
そしてその母樹は、樹齢100年を越すような大木が選ばれるのだった。
さらに、種子を採取するにはそんな大木に登らなければならない。
今日、教えていただいたのはそのための技術の、ほんの初歩の部分でした。
 
木登りには、長いロープの両端に直径5cm長さ60cm程度のヒノキの棒をくくりつけた道具を使う。
これを吉野地方では「かるこ」と呼び、それを使った木登りの方法を「かるこ登り」という。
全国的には「ブリ縄」という呼び方が一般的らしい。
 
この登り方、ごく簡単にいうと、一本目の棒を上る木にロープでくくりつけ、それを足場棒にしてまず一段木に登る。
そして二本目の棒を括りつけ、二本目に登る際に一本目の棒をはずし、
はずした一本目をまた次の足場として木にくくりつける。
それを繰り返して、木の上に上っていくのでる。
この際のポイントは、当然のことながら足場棒を木にくくりつける方法。
足場にしている荷重がかかっている際には木から外れないように、
荷重がなくなれば容易に解くことができるようにくくらなければならない。
教えてもらえば、なるほど、というものだが、
それにしてもよくこんなやり方で高いところまでのぼっていくな、というのが正直な感想。
昔の人の持つ技(わざ)には凄いものがある。
 
現在では、ロック・クライミングの技法を応用したツリー・クライミングの技法が発達しつつあり、
より安全に登るための方法は器具が開発されている。
そんなもののなかった昔、手近な材料と知恵とでこのような技を編み出した人には感心せざるを得ない。
しかも、これはまだ「種取りの技法」の本の初歩の部分でしかないのだ。
高い樹上で種子の採取を行うわけで、これには太い木の幹から離れて細い枝に移っていかなければならない。
これを確実に行う方法となると...、解説と少しの実演を見せていただいたが、真似をするなんてとてもとても...
最近でこそ老齢で力が衰えたと言っておられたが、
若かりし頃は、木から木へロープにぶら下がって飛び移るくらいは朝飯前だったとか。
「たかすぎ〜、たかすぎ〜」のコマーシャルを憶えていらっしゃる方もおられようが、まさしくあれである。
 
しかし、残念なことにこのような技術も伝承者がいなくなりそうなのだ。
私とても林業に関わるものの端くれではあるのだが、
このような技術、習得したとしても現状ではなかなか生かせる場がないだろう。
さらには時流の流れにより、このように「危険な」技は、
特に労災を認定するお役所なんかからは、認められなくなってしまっている。
これを進歩と呼ぶべきかどうか...
自分の持つ技を少しでも次代に残そうとしておられる杉本さんの姿をみるにつけ、考えさせられるのである