岩国市住民投票を巡って

昨夜TVを観ていたら、岩国市の住民投票問題をやっていた。投票率が50%を越えて投票が成立し、しかも反対が9割近くに達したとのこと。

岩国住民投票、米軍機移駐「反対」が圧倒

 在日米軍再編に伴う米海兵隊岩国基地への米海軍厚木基地(神奈川県)の空母艦載機移駐の賛否を問う山口県岩国市の住民投票が12日、投開票された。


 反対は4万3433票で、投票総数の87%に達し、賛成の5369票を大きく上回った。投票率は58・68%で、成立に必要な50%を超えた。

 岩国市の井原勝介市長は12日夜、記者会見し、「14日に市議会と相談したうえで、移駐案撤回を求める。国は地元の声を大切にし、適切に政策判断してほしい」と述べた。週内に上京し、政府に要請する予定だ。

 額賀防衛長官は12日深夜、「岩国移駐は、日本の安全保障などの面から、ぜひとも実現しなければならない。地元に必要性を説明し、理解と協力が得られるよう最大限の努力をする」との談話を発表した。

 政府は、移駐計画を変更せず、3月末にまとめる在日米軍再編の最終報告に盛り込む方針だ。ただ、米軍再編を巡る全国初の住民投票で反対の意思表示が出たことは、他の米軍基地関係自治体の動向などに微妙に影響する可能性もある。

 岩国市は20日に周辺7町村と合併し、現在の市の住民投票条例は失効する。19日で失職する井原市長は、4月下旬の新市長選に立候補を表明している。
(2006年3月13日1時35分 読売新聞)

で、見ていたTV番組であるが、これは『人物ライブ・スタメン』というもの。阿川佐和子がメイン・キャスターで爆笑問題がパネラーを務めているというもの。普段ならこんな時間はもう就寝中なのだが、この日はなんとなくTVを眺めてていた。そうすると岩国問題のことが取り上げられたので、これはと思って眺めているだけでなく、ちゃんとTVを注視した。
岩国市の井原市長が画面に登場し、キャスターたちとなにやら言葉を交わしたところで、パネラーとして出ていた代替文橋下 徹がだいたい次のような発言をした。
住民投票には大反対」「国政は選挙の結果選ばれた国会に全面的に任せるべき」
どうもコイツは政府・与党の顧問弁護士を買って出たようである。無料でかな? 多分そうだろうと思うが。
この発言に対して岩国市・伊原市長の切り返しは見事だった。
「米軍基地の問題は国の専権事項だということは承知している。しかし、ことは岩国市民に影響を及ぼすことだから、住民の声をくみ上げ、それを国政の場に届けるのは当然のことではないか。」
橋下顧問弁護士は、返答に詰まり、困惑していた表情がありありと映し出されていた。これだからTVは面白い。

住民投票の問題点・国政選挙の問題点

橋下氏は「住民投票はイエス・ノーの答えしか示すことができないから問題だ」という趣旨の発言をしていたと思う(記憶が曖昧だが)。それは確かに問題である。しかも防衛問題は国の専権事項であるから、そこに一方的にノーを突きつけるのはチトおかしいかも知れない。では橋下氏が全面的に任せるべきという国政選挙には何の問題点もないのか? 
現代の間接民主主義では選挙で選ばれた代表者が施策を決定するというのが原則だ。その原則に異議を唱えるつもりはないが、原則は原則でしかない。原則はそれが全てではないのである。だから住民投票という直接民主主義的な手法で出された答えも、勘案する必要はある。井原市長はそれを言っているのだと思う。橋下の論理でいけば、国民は選挙でしか自らの意見を反映することはできない、してはいけないということになってしまう。
それにそもそも前回の国政選挙が「郵政民営化に賛成か反対か」ということだけがテーマの選挙だったわけで、それで選ばれた代表たちが郵政のこと以外の政策を決定するのは、法的には合法でも道理には外れている。
しかも道理に外れているのはそれだけではない。先の衆議院選挙の結果そのものが道理には外れている。

しかし、得票率で見れば自公両党は合わせて小選挙区で全体の49%、比例区で全体の51%を抑えるに止まっており、自公連立政権と与党の郵政民営化法案が国民の圧倒的な支持を受けたと言う訳ではないという見方が可能である。だが小選挙区において、各選挙区で過半数を獲得し当選した与党候補者が3/4以上を獲得したということも事実であり、自公連立政権が国民の圧倒的な支持を受けたという見方も可能である。これはどちらが正しいかという断定は難しく、分析次第によって様々な評価が可能である。この事から、選挙制度の欠陥もまた浮き彫りとなっている。
ウィキペディア(Wikipedia)より引用

直接民主制も間接民主制もどちらも完璧な制度ではないわけであるから、原理原則を盾にとっての主張には無理がある。それに民主主義のルールの中には「他の意見を尊重する」というのもあったはずだ。岩国市民は当事者なのだから、そのものたちの意見を聞かない、というのも道理に外れている。

新聞各紙の社説を眺めてみると

まずは産経と思ったが、省略。触れる必要はあるまい。
読売は無難な線だが右より。住民投票の問題点と防衛問題の重要性に触れつつも、
「投票結果には、法的拘束力はない。だが、米軍再編を円滑に進めるため、政府として、地元の理解を得るよう最善の努力を尽くすのは当然だ。」
としている。ただ
「こうした事情を考慮すれば、今後、岩国市側も、いたずらに政府と対立し、混乱を招くことがあってはなるまい。」
の「も」はなんだ? 混乱を招いた責任は国にもあるはずなんだが。
そこに触れているのは朝日。冒頭で触れられた旧岩国藩の故事はよかった。
毎日も無難にまとめてある。それだけ。