伐り込み

gushoukuuron2006-02-18

ここのところの山仕事は伐り込みである。伐採の伐のほう。普段は「伐り込み」などと言わず、単に「伐り」というだけだが。
いま伐っている山は樹齢70年程のスギ・ヒノキの林だが、現在伐っているのはスギ。ヒノキも伐るのだが、後回し。理由は後述する。
この伐り込み、ただ単に伐ればよいというものではない。キチンと伐る方向を制御して伐らなければならない。てんでバラバラに伐ってしまうと、木が積み重なってしまって搬出しにくい上に、折り重なったところで折れてしまう。伐った木は捨ててしまう間伐とは違い、いま伐っているのは商品であるから、なるべく傷まないようにする必要がある。だからなるべくきれいに並べて伐るようにしなければならないわけだ。
ところが、このキチンと並べて伐るというのがなかなかに難しい。木はどれをとってもひとつとして同じものはなく、真直ぐ立っているのもあれば右を向いて傾いているのもあり、それぞれに個性がある。これを同じ方向に伐るには技術と経験が要る。私などは正直なところまだまだ未熟なものだ。
上の写真を見てもらえばわかると思うが、だいたい同じ向きに揃って倒れている。さらにこの写真にはもうひとつ特徴があって、それは木が上を向いて倒れているということだ。
木というものは、何の工夫もなく伐るとほとんどが斜面の下の方向へ向いて倒れていく。これは木が陽の光を受けるのに谷側のほうが受けやすく、従って自然とそちらの方に枝が伸びていく。その枝の重みで木の重心は斜面下向きの方向に傾いていくわけだ。
重力に逆らった方向に倒す方法を紹介するのは又別の機会に譲るが、倒れるままに伐るよりもかなり大変な作業になる。上を向いて倒すことを「伏せ込み」というが、この伏せ込みをするのはスギだけである。その理由がヒノキを伐るのを後回しにする理由と関係がある。
スギは含水量が多い樹種である。伏せ込みを行うのは、木の中の水分を蒸発させるためで、これを「葉枯らし」という。スギの木を枝をつけたままで上向きに倒してしばらく放置しておくと、葉から水分が蒸散されていく。幹は根から切り離されているから、新たに水分が補給されることはない。そうして木の中の含水量がさがっていく。不思議なことに、葉を付けたままであっても下向きに倒してあるとなかなか蒸散が進まない。どういう仕組みなのかはよく知らないが、木の中では水分は下からから上へと移動する。逆さまにしてしまうと水分はうまく移動していかないらしい。
水分が蒸発して含水量が下がるとどういうメリットがあるかと言うと、まず、重量が軽くなる。そうなると当然のことながら搬出に際して有利。そしてスギの場合、含水率が低くなると色合いが良くなる。水分の多いスギは黒っぽい色をしているが、少なくなるにつれピンク色になっていく。もうひとつは、木というものは乾燥する際に反ったり割れたりしていくので、製材して柱や板を挽く際に水分量が高いと製材してから狂いが生じる。最近は人工的に乾燥させることも多いが、やはり自然乾燥のもののほうが高品質なのだそうだ。そういうわけで葉枯らしさせたスギの方が市場価値が高い。
スギはそういうことなのだがヒノキは逆で、あまり乾燥させてしまうと具合が悪い。すぐにひび割れが入ってしまい、製材できなくなってしまう。ヒノキは伐ったらすぐに山から搬出して製材した方がよい。樹種によって取り扱いが異なるわけだ。
そんなわけなので、まずスギを先に伐って乾燥させ、ヒノキは後から伐るということになる。
下の写真は、伐りこみした前後を同じ地点から撮影したものである。左の写真の左側に残っているのがヒノキ。
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