luxemburg卿の別荘にて(1)

 
luxemburgさん、ゴメンナサイ。キャラお借りします。
 
人里離れた山奥に、一軒の瀟洒な邸宅。luxemburg卿が所有する大森林の中に建てられた、別荘。麗子とばあやが庭でアフタヌーンティーを楽しんでいるところへ、一匹の仔犬が迷い込んできた。
 
麗子:まあ、可愛いワンちゃんだこと。
ばあや:いけません、おぜうさま。そんなものをお構いになっては。汚のうございます。
 
仔犬が尻尾を振って、麗子にじゃれ付く。麗子がテーブルの上の菓子を一つとって投げると、仔犬は一目散に飛んでいく。そこへ、みすぼらしい風体の男が登場。腰に鉈と鋸をぶら下げている。
 
:コラ! ブー! そげなもん、喰うてはイカン!
 
ブーと呼ばれた仔犬はいったん咥えた菓子をポロリと落とし、声のした方を振り向いた。男の姿を確認すると、再び菓子を咥えて森の中へ走り去っていった。
 
:やれやれ、困ったヤツだ...。
これはこれはおぜうさま。オラちのコロがたいへんに失礼おば致しました。どうかお許しくせえませ。
麗子:とっても可愛いワンちゃんね。ブーっていうの? おかしな名前だこと。
ばあや:(小声で)おぜうさま、これはダンナさまのお雇いになっているキコリのなかでも大うつけと評判のものでございます。あんまりお相手召されるな。
共謀罪にBoo! といっとりましたら、自分の名前だと勘違いしたような次第でごぜえまして。
 

      

 
麗子:まあ! オホホ、おもしろいワンちゃん。あのコは猟犬なの? 甘いものをあげて、悪かったかしら?
:いいえ、甘いものは構いはせんだが、アンタがたの食べるものは...。
麗子:私たち、今、午後のお茶の最中ですの。もしよかったら、あなたも一緒にいかが? 山のお話も伺いたいわ。
ばあや:おぜうさま!
麗子:ばあや、いいじゃないの。
このお紅茶はダージリンのファーストフラッシュ。こちらのクッキーは、ばあやが焼いたものですのよ。山のもの美味しいでしょうけど、こういったものもなかなかいけましてよ。
:せっかくじゃが、ワシャそういったものを口にするわけにはイカンでの。
麗子:どうしてですの?
相変異してしまうでの。
麗子:そうへんい? ばあや、そうへんいってなあに?
ばあや:さあ、ばあやは存じません。
:イナゴを知っとるら?
麗子:いなご?
ばあや:ああ、懐かしや。イナゴの佃煮は最高のご馳走でした。
麗子:食べられるの?
ばあや:いえいえ、とんでもございません、イナゴを食べるなどと。イナゴとはバッタのことでございますよ。
麗子:ああ、バッタなら知ってるわ。仮面ライダーのモチーフになった昆虫ですわね。「ライダ〜へんしん、とう!」って。あのバッタね。
こやつらホントに上流階級かよ。そう、その変身だがや。イナゴは生育条件、特に固体密度の変化によって、異なる姿と行動をとるようになり、大量発生して農作物を食い荒らす蝗害を引き起こす*1。その変身だがや。
麗子:そういえば中国史で教わった記憶がございますわ。
ばあや:さすがはお嬢様、「ライダ〜へんしん、とう!」だけではございません。
麗子:きこりさんは、私たちのティーやクッキーを食べると変身するのでございますの?
:イナゴみたいに姿まで変わりはせんがの。心と行動は変わってしまうの。
ばあや:噂どおりうつけ者。
麗子:オホホ、ユニークなことをおっしゃるのね。どんな風に変わるのかしら。
ルソーだのホッブス*2のと言うようになるんだがや。
 
もう眠くなった。続く。

*1:これは正しくはイナゴではなくトノサマバッタ等による。漢語の「蝗」の字にイナゴの訓があてられたことによる誤解

*2:とりあえず「お嬢さま、政治を考える(1)」参照