ブランデンブルク協奏曲

私はクラシック音楽を愛聴している。
妻はもともとはそんな堅苦しいものは聴かなかったのだが、最近は私の影響を受けはじめているようだ。
現在のお気に入りはJ・S・バッハのブランデンブルク協奏曲、それもなぜか第6番。ヴィオラの音色が渋いんだそうな。
なかでも特に、ゆったりと流れる2楽章の美しさに惹かれているみたい。
 
今朝、車の中でそのブランデンブルク協奏曲を流していたら、4番、なかでも3楽章が気に入ったと言う。
軽快に歩くようなリズムにのってヴァイオリンと2本のフルートが対位法を織り成していく音楽。
一枚のCDに4,5,6番と3曲入っているのでこの4番もたびたび耳にしているはずなのだが、
なぜか今まではお気に入りではなかったのだ。
そして同じCDに入っている5番については、いまだ何も言わない。
バッハ/ブランデンブルク協奏曲<全曲>
 
妻は発見したのだ。ブランデンブルクの4番の中にも何かを。
この何かを、言い当てるのは難しい。
しかし、間違いなく何かを見出したはず。だから、これも彼女のお気に入りとなった。
妻は識ったのだ。かの音楽の中に何かを。
そしていずれ、5番の中にも何かを発見するだろう。
 
クラシック愛好家の私は嬉しかった。妻がひとつでも私の好きな音楽を気に入ってくれたことが。
そして吉田秀和という音楽評論家が書いていた文章を思い出した。
「バッハを知らない人はうらやましい。その人は、これからバッハを知る喜びを味わうことが出来る。」
うろ覚えなので正確にこう書いていたかどうかは定かではないが、そんなことはどうでもいい。
とにかく彼女は徐々にでも、その喜びを識ることになるだろう。私は羨ましくもあり、同時に楽しみでもある。
バッハの他にも、モーツァルトベートーヴェンシューベルトも。そして果てには『トリスタンとイゾルデ』も。
 
けれど、急いではいけない。
これに気をよくして彼女にクラシック音楽を聴くことを強要してしまうと、かえって逆効果になるだろう。
嫌な気持ちで音楽を聴いていて、そのなかに喜びなど発見できるわけがない。その音楽を識ることなどできるはずもない。
私はただ、彼女が発見するのを待てばいい。また、そうするしか出来ない。
 
それにしても、人が創り出すものの中でも芸術というものは際立って素晴らしい、私はと思う。
音楽でも文学でも美術でも映画でも。さらには一部のマンガも、私としてはその中に加えたい。
 
これらを識るということは、喜びと隣り合わせだ。